【イラスト書評】『東京自叙伝』奥泉光
超要約
主人公は東京の「地霊」
地下にうごめく東京の記憶(=「地霊」)が、様々な生き物に乗り移りながら増殖・成長していく姿を描く。幕末の武士から現代の原発ジプシーまで、「地霊」が宿主とした6人の話を中心に展開する。
■東京を体現する様々な宿主たち
柿崎幸雄である頃、大地震をきっかけに過去生の記憶があることにハタと気づいた「私」は、何度となく新たな宿主の身体で目覚める中で、自分が太古の時代から東京に棲んできた「地霊」であるという確信を強める。
最古の記憶はなんと氷河時代。「私」は1人ではなく、同時代に複数存在することも。
過去の記憶をたくさん持つため、個人としてはありえない言動をして周りに驚かれたりする。
東京で起きた誰もが知ってる出来事(ニュース、事件、流行)の背後には、いつも彼の影がある。無邪気な言動やほんのささいなことが、ちょくちょく有名事件のきっかけになる。
さり気なくも頻繁な歴史への関わりっぷりは、映画『フォレスト・ガンプ』のよう。
飄々として無責任、何事につけ刹那的で、「炎上」が起こるのも起こすのも大好き。人が死んでも殺しても他人事。どれだけ世の中混乱しようがどこ吹く風で「なるようにしかならぬ」が「私」のスタンス。それはそのまま「東京」という場のメタファーでもある。第50回谷崎潤一郎賞(2014)受賞。
皮肉度120%
口が悪く不謹慎な「私」の語りが痛快で、開き直った態度はいちいち笑えるのだが、時代が現代になるにつれて戦慄も覚える。シニカルな毒がたっぷり。描写は巧いし、話は厚みがあるうえ落語のように面白い。故・今敏にアニメ化して欲しかったなーと思うノリ。