【イラスト書評】『しんがり 山一證券 最後の12人』清武英利
超要約
12人の「しんがり」
7千7百人からなる山一証券を廃業に追いやったのは、2千6百億円にも上る「簿外債務」(債務隠し)。「それはいつ、どのように、誰の決断で生まれ、どのような人間によって隠し続けられたのか」。見返りのない損な役回りでありながら、無給となっても真相の究明と清算業務に力を尽くしたのは、出世コースから外れ、日ごろ偏見の目で見られていた「業務管理本部」を中心とした面々。
度重なる幹部らの裏切りや、周りの冷たい反応を受けながらも、それぞれの信念とけじめのために、最後まで会社に踏みとどまる。
「しんがり」たちが仕上げた社内調査報告書は、やがて「日本企業の歴史に残る内省の資料となるだろう」と評されるほどのものとなる。第36回講談社ノンフィクション賞(2014)受賞。
誰かがやらなければならないことをやる
見返りがない上、あまつさえ後ろから石が飛んでくるような役にも関わらず、進んで務める姿に頭が下がる。刻々と終わりに向かっていく最中、役員から末端の社員まで、渦中の一人ひとりの状況が描写されていく。不謹慎かもしれないけども、映画『タイタニック』を彷彿とさせられた。非常時に際立つ個々人の尊い面には、背筋が伸びる思いがする。
【イラスト書評】『大栗先生の超弦理論入門』大栗博司
超要約
超極小の世界から見えてきたもの
アインシュタインの「一般相対性理論」(重力の理論)発表からほどなく、ミクロな世界を解明する「量子力学」が確立された。やがて二つの理論の間には、深刻な矛盾があることがわかった。その突破口として、物質の基礎が「ひも」であるという「超弦理論」が、両者を矛盾なく統合できる唯一の理論として期待されている。これを掘り下げてゆくと、三次元だと思っていた空間が四次元になったり、二次元になるという現象が起きる。
こうした「空間の次元」が、「超弦理論」では変化してしまう(ある次元からある次元へと移り変わったり、見方によって、異なる次元で起きているように見える)。これはたとえば、水と氷が、同じ分子だけれども結合の仕方の違いでマクロな視点からは違うものに見えることに似ている。
これと同じように、超弦理論では空間というものもまた、何か他のものの二次的な概念、すなわち幻想にすぎないのではないかということが示唆されている。
量子力学や素粒子論の概要から始まって、超弦理論の成り立ちや考え方、そして空間は「幻想」であり、時間もあるいはそうかもしれないという地平に至るまでを「できるだけ少ない予備知識で」読めるようにたどる。第30回講談社科学出版賞(2014)受賞。
これ以上ないくらいに懇切丁寧。が、しかし……
自分の頭が度し難いほど悪いように思えてくる。手とり足とり、すごく噛み砕いて説明されているのはわかるのだけど、少し込み入った話になると、脳みそパーン! それでも文章は平易でどんどん読み進められるし、大局的な面を追うだけでも面白い。理系的素養のある人ならきっと抜群に面白いだろう。