【イラスト書評】『自分を好きになる方法』本谷有希子
超要約
いつか本当に分かりあえる相手が現れることを夢見て
リンデという名の女性の人生を、年代別の6つの断片から描く。自意識過剰で素直になれなくて、何が地雷になるか自分でもわからない分裂を抱えたリンデ。そんな彼女の3歳、16歳、28歳、34歳、47歳、63歳の肖像。
どの年代にあっても、リンデは気づけば孤独に身を寄せている。本人は、そのことを嘆きもするが、一方では、かえって自足しているフシもある。
胸のわだかまりをくすぶらせたまま、やがて現実には期待をしなくなってゆくリンデ。63歳のリンデは、不在連絡票をいつも置いてゆく宅配業者に「再配達依頼」をくりかえしては、着飾って茶をこしらえながら待機したりしている。もはや、自分の待ちわびるものを宅配業者に投影し「待ちわびるために待ちわびている」かのよう…。
それはそれとして、油断のならないリンデに始終ハラハラ
常に前向きに、人と穏やかに折り合って生きようとしているのに、まるで無意識の逆襲に遭うように、ちょっとしたこだわりが元で、唐突に始まるちゃぶ台返し。表面上なごやかで楽しい情景でも、リンデがいつ何を台無しにするか分からないから、かえって不穏で、笑えてさえくる。とにもかくにも、そこが一番印象に残った。でもそんなデフォルメ気味の不器用さに、自分にもある影を見て、ドキッとしたり、しなかったり。
16歳のランチタイム、28歳のプロポーズ前夜、34歳の結婚記念日、47歳のクリスマス、3歳のお昼寝時間、63歳の何も起こらない一日…ささやかな孤独と願いを抱いて生きる女性の一生を「6日間」で描く、新境地長篇小説!
【イラスト書評】『すっぽん心中』戌井昭人
超要約
流れのままに行く2人
将来に対する展望もなく趣味もなく、日々をただ無為にやり過ごしている田野は、ある日、仕事中に交通事故に遭い、ムチ打ちで首が横を向いたままになってしまう。リハビリの帰り、上野公園で休んでいると、突然、知らない若い女に話しかけられる。大きなボストンバックを担いだ彼女、モモは、転がり込んだ男の家から追い出され、昨日からポテトチップス一袋しか食べていないと言う。特にすることもない田野は、モモをとんかつ屋に連れて行く。
とんかつのお礼に、首をマッサージするというモモ。2人で湯島近辺をぶらぶらし、マッサージができる場所を求めてラブホテルへ。そこで流れていたテレビのグルメ番組を見て、モモはすっぽんが金になると独り合点。2人で茨木の霞ヶ浦へ獲りに行こうと田野を誘う。すっぽんなんて捕れるわけないと思いながらも、田野はこのままあっけなく別れるのも寂しいと感じ、モモに付き合う。
■土手で現れないすっぽんを待つ2人
脱力系のノリとそこはかとない閉塞
「流れのままに」で始終「とほほ」な展開が笑える。しかし見方を変えると、置かれている状況を決して深追いしない、息が詰まる現実にフォーカスが合いそうになれば意図的にボカすという、閉塞への麻痺も感じられて、なんだか闇が深いようにも思えてくる…。50ページ弱でさくっと読める。